1つ、問題を提起しよう。
天皇は「国民」か、どうか。
普通の感覚だと、“天皇が国民であるはずがない”という話になるだろう。
しかし、憲法学上の意見は対立している。
これについて、比較的よく整理されていると思われる記述を紹介する。「まず、日本国憲法下では、明治憲法下のような皇族と臣民(しんみん)
との区別は存在しないはずであるとの基本的認識から、
天皇および皇族はともに(基本的人権の)享有(きょうゆう=権利・能力など
を生まれながら持っていること)主体である『国民』とし、
ただ天皇の職務および皇位の世襲制からくる最小限の特別扱いが
認められるとする説(A説)がある。が、反対説も有力で、天皇が象徴にしてあらゆる政治的対立を超越した
存在であることを重くみて、天皇は享有主体である『国民』に
含まれないとし、皇族については『国民』に含まれるとしつつ、
天皇との距離に応じた特別扱いが認められると説き(B説)、
あるいは、皇位の世襲制を重くみて、天皇および皇族ともに
『門地(もんち=家柄、家格)』によって『国民』から区別された
特別の存在にして基本的人権の享有主体ではないと説かれる(C説)。明治憲法との対比でみると、A説は説得力をもち、また、
象徴も天皇の公的地位にまつわる特殊な任務とみれば、B説のように天皇と皇族と
を区別する根拠に欠けるとまではいえない。
天皇ないし皇族を『国民』でないとすると、両者の特別扱いを
必要以上に大きくしないか、の実際上の懸念も理解できる。が、他面、憲法は、主権者国民の総意に基づくとはいえ、
近代人権思想の中核をなす平等理念とは異質の、“世襲の『天皇』”を
存続させているのであって、現行法上天皇および皇族に認められている
特権あるいは課されている著しい制約ーーそれが世襲の象徴天皇制を
維持するうえで最小限必要なものと前提してーーが是認されるとすれば、
その根拠はまさにこの点に求めざるをえず、
憲法14条の『法の下の平等』条項下の『合理的区別』論で説明しうる
事柄ではないと解される…。つまり、憲法は基本的人権の観念に立脚しつつも、
天皇制という例外を導入したのであって、結局C説のように
解さざるをえないと思われる」
(佐藤幸治氏『日本国憲法論』平成23年、成文堂)精密な憲法学的な思考による結論も、ほぼ一般人の常識の地点に
帰着するようだ。
私のような素人にとっては、憲法で「天皇」と「国民」が
併記されている条文を通覧すると、両者は明らかに“別の”
範疇として扱われているとしか、理解できない。
この点は改めて。【高森明勅公式サイト】
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